TVアニメ『幸腹グラフィティ』のオープニングテーマ、坂本真綾『幸せについて私が知っている5つの方法』。
使われるコード自体は全体的にシンプルですが、イントロの平行移動が連続する進行や、Aメロ・Bメロ・サビと次々に転調していく独特の浮遊感が印象的です。
今回はこの曲に何度も出てくる7sus4コードに注目してみます。ドミナント的でもサブドミナント的でもある曖昧な性質から平行移動で進行させたり、転調に使われたりと独特な使い方がされるコードです。
7sus4コード

7sus4コードは3rdの代わりに4thをおいたドミナント7thコードの一種です。
例えばキーCでV7(G7)がソ-シ-レ-ファなのに対して、V7sus4(G7sus4)はソ-ド-レ-ファとなります。ドミナント7thコードは「シ-ファ」のように不安定な減5度(増4度)の音程を含むのが特徴ですが、この音程がなくキーの第7音シの代わりに主音ドを含みます。
また、このコードとほぼ同じ機能をもつオンコードがあります。G7sus4にテンション9thを加えてオンコードにしたのがDm7/G、5thを省略したのがF/Gです。
こうしたコードはドミナントコードでありながらオンコードの上に現れるFやDm7のようにサブドミナント的でもあり、機能があいまいな分クセがなくて汎用性のあるコードです。
イントロ

イントロ: Fm7/B♭ → Gm7/C → E♭m7/A♭
イントロで同じ種類のコードが連続している進行が非常に印象的です。特に後ろの3コードは最後のV7sus4とその平行移動と考えられます。
このようにあえて調性から離れて同じ種類のコードを平行移動させる技法はコンスタントストラクチャー(Constant Structure)と呼ばれます。ここではトニックやドミナントといったコードの機能はあまり意味をもたず、ハーモニーによる一定のパターンを強調する進行です。
メジャー7thコードやマイナー7thコードもよく使われますが、この機能があいまいな7sus4コードもコンスタントストラクチャーと相性が良く頻繁に使われます。
Aメロ

Aメロ: A♭7sus4 → B♭m7(11)
ここではV7 → VIm7の進行でV7の代わりにV7sus4を使っています。sus4はIsus4 → IやV7sus4 → V7のように4度を半音下に解決させるイメージが強いかもしれません。
確かにこの名前の由来となった西洋クラシック音楽のサスペンション(掛留音)は解決させるのが基本ですが、ジャズやポピュラー音楽、世界各地の民族音楽には必ずしも当てはまるものではなく、むしろ解決させずにsus4コード単体でもよく使われます。
Aメロ: E♭7sus4 → F7sus4 → C△7(9)
E♭7sus4 → F7sus4と7sus4コードを平行移動させて転調しています。冒頭のコンスタントストラクチャーにも似ていますが、機能があいまいなために転調しやすい側面があります。
この後さらにF7sus4 → C△7(9)と進行してCメジャーキーに転調しています。もともとドミナントコードは偽終止によって様々な調に転調しやすいのですが、機能があいまいな7sus4コードとすることでさらにスムーズになっています。
Bメロ

Bメロ: Dm7 → G7sus4 → C△7
ここでもsus4は解決しないままになっています。基本的にドミナント7thコードと7sus4コードは入れ替えて使えると考えて良いと思います。
この部分はIIm7 → V7sus4 → I△7とツーファイブの流れです。ここでもしV7sus4コードではなく通常のV7だとすると、この進行の真ん中で主音が一瞬だけアボイドになってしまいます。
「シ-ド」のように導音が重要な西洋クラシック音楽ではV7であまり問題になりませんが、これに必ずしも当てはまらないポピュラー音楽や民族音楽ではドローンのように主音を引っ張ることができる7sus4コードが役に立ちます。
Bメロ: F7sus4 → E♭△7

Bメロの最後では転調後のV7sus4にあたるF7sus4コードを置いて転調しています。V7ほどではないですがV7sus4コードもIコード(どの調にいるか)を意識させやすいので転調の時に利用しやすいコードです。
ただしここではV7sus4 → IV△7と進行して、このままサビの最後までIコードが出てきません。その代わりにIを強く意識させているのがメインのメロディーの後ろで流れているカウンター・メロディーです。ほとんどの部分がキーの第1音である主音で出来ていて、これはF7sus4のsus4の音でもあります。
サビ

サビ: F7sus4 → G7sus4 → G7
F7sus4 → G7sus4ではV7sus4のsus4は解決せずにそのままセカンダリードミナントのVI7sus4に進行しています。通常のドミナントコードに限らず、セカンダリードミナントに対しても同じように7sus4コードは使えます。後ろのG7sus4はクラシック音楽でも見慣れたようにsus4が半音下に解決しています。
サビ: F7sus4 → Cm7
V → IImというドミナントからサブドミナントへの弱進行です。クラシック音楽でも場合によっては使われるほか、ポピュラー音楽ではそもそも珍しいものではないのですが、やはり7sus4コードには比較的自由な進行をしやすいという側面があります。
おわりに
ここまで7sus4コードの特徴的な使い方をいくつか見てきました。主音を含むメロディーラインでも使いやすかったり、機能のあいまいさを利用して転調したり平行移動させたりと、より自由なコード進行をしやすいのがこのコードの特徴です。