坂本真綾『Be mine!』コード進行分析と転調の種類別のテクニック

Be mine! A・Bメロの転調

TVアニメ『世界征服~謀略のズヴィズダー~』のOPテーマ、坂本真綾『Be mine!』。前回はサビ頭の強烈なコードを中心に8小節を分析しました。

サビのメロディーは基本的にキーF♯の範囲に収まっていましたが、A・Bメロとなるとほぼ2小節ごとに転調を繰り返す、かなり攻めたコード進行です。

今回はこの目まぐるしく調が変わるA・Bメロについて、転調を自然に聞かせるためのコードとメロディーの工夫に注目しながら詳しく分析してみます。

Be mine! - 坂本真綾 | Apple Music

Aメロ

Be mine! コード進行表(Aメロ)

Aメロ: 1~6小節目

1~6小節目は一見すると複雑ですが、IV△7 → V7 → VIm7(5小節目だけIV△7の代理IIm7)を元のF♯メジャーキーと長3度下のDメジャーキー、再び元のF♯メジャーキーと合計3回繰り返しています。こうしたパターンの繰り返しは転調を自然に聞かせるひとつの方法です。英語ではシーケンシャル・モジュレーション(Sequential modulation)と呼ばれます。

コモントーン/共通音転調のテクニック
坂本真綾『Be mine!』より

メロディーに注目すると、2~3小節目の転調ではF♯の音、4~5小節目の転調ではC♯の音がそれぞれ転調前後のキーで共通する音となっていて、これによって転調がよりスムーズに進むようになっています。1~3小節目のメロディーをさらに詳しく見てみると、転調の前後で「F♯・B・C♯」の3音が頻繁に使われていることに気付きます。これは転調前のキーF♯と転調後のキーDで共通する音です。

F♯メジャースケールとDメジャースケールの共通音
上:F♯メジャースケールと下:Dメジャースケールの共通音(F♯・B・C♯)

このように転調の前後のキーで共通する音を中心にメロディーが作られていることで、転調をしても違和感なく自然に聞こえて歌いやすいメロディーになるように工夫されています。コモントーン・モジュレーション(Common-tone modulation)=共通音転調と呼ばれる技法です。

Aメロ: 7・8小節目(D△7 → C♯m7 → Bm7)

「D△7 → C♯m7 → Bm7」は度数で書けば「♭VI△7 → Vm7 → IVm7」でF♯キーの7音だけでは作ることができない和音です。F♯メジャーに対して主音が同じで長短違いのF♯マイナーから一時的に借りて来た和音になっています。一時転調の手法である借用和音(Borrowed chord)または別名モーダルインターチェンジ(Modal interchange)としてよく使われるのがこの同主短調の和音です。

ピボットコード転調のテクニック
上:F♯メジャーと下:F♯マイナー=Aメジャーキーのダイアトニックコード

同主短調と構成する7音が同じ短3度上の平行長調も含めて近い関係にあるので一時的な転調にも通常の転調にも向いています。中でも短3度の関係を巧みに使いこなして次から次へと一時転調を繰り返していく坂本真綾&菅野よう子『プラチナ』のAメロは圧巻です。詳しくはこちらの記事で解説しています↓

坂本真綾&菅野よう子『プラチナ』―転調のテクニックとオシャレなコード進行―
Aメロで行ったり来たりする短3度の転調や、Bメロの長2度転調x2でサビでは長3度上になっていたりと、この鮮やかな転調のテクニックを中心に分析してみたいと思います。過去には作曲家の田中公平さんがTV番組でこの曲を分析・解説していたりと同業者か…

Bメロ

Be mine! コード進行表(Bメロ)

Bメロ: 2・3小節目(B△7 → Bm7)

Bm7は転調前のキーではIVm7にあたるコードで、同主短調からの借用和音であるサブドミナントマイナーです。こうした任意のマイナー7thコードを転調後のIIm7と考えてツーファイブの進行(IIm7 → V7 → I)をするとスムーズに転調できます。ジャズで特によく出てくるコード進行です。

IVm7からは「IVm7 → ♭VII7 → ♭III」と短3度上に転調できます。ここではV7を飛ばしてIIm7から直接Iに進行していると解釈できます。

Bメロ: 4小節目(A△7 → D△7)

D△7は転調する前の時点ではIV△7ですが、転調後のI△7と解釈を入れ替えることで完全4度上に転調しています。こういった転調の前後のキーに共通するコードを使うことはピボットコード転調(Pivot chord modulation)と呼ばれていて、転調をスムーズにするテクニックのひとつです。先ほどは前後で共通する音階の構成音を使ったメロディーの例を見ましたが、コード進行でもやはり同じことが言えます。

ピボットコード転調のテクニック
上:Aメジャーキーと下:Dメジャーキーで共通するダイアトニックコード(D△7)

Bメロ: 6~8小節目(B△7/C♯ → Ddim7 …)

B△7/C♯は書き換えればC♯7sus4(9)、ドミナント7thコードのC♯7が変化した形です。ピボットコードに似ていて転調前で言えばIIIへのセカンダリードミナントVII7、転調後で言えばV7の役割をそれぞれもっています。

転調をする時にいきなり転調後のIコードを置いても、それがIに聞こえる=転調したと聞こえる保証はありません。そこで例えば「V7 → I」とドミナントコードが解決する進行をして転調後のIコードを意識させる方法があります。

ドミナントコードにはどのような転調の前後でも何かしらの機能を解釈できるあいまいさがあります。例えばV7をセカンダリードミナントや代理ドミナントとして解釈したり、解決先のIを代理コードに置き換えたりと「V7 → I」以外の偽終止をしても転調しやすくひっくるめてドミナントコード転調(Dominant chord modulation)と呼ばれます。前後で共通する音が少ない遠い調でも応用しやすい方法です。

この曲では「V7 → I」の中間にドミナントの機能をもつコードをさらに2つ追加して「V7sus4(9) → ♯Vdim7 → ♭VII7(9,♯11) → IVm7(9,11)」と解決を引っ張りながら、サビ1小節目の後半でようやくIの代理VIm7に解決していて、ほぼドミナント3連続という相当に攻めたコード進行になっています。

おわりに

関係の近いキーであれば事前に準備をしないでそのまま転調するダイレクト転調(Direct modulation)でもスムーズに行きます。7音が共通で主音が短3度ずれるだけの平行調、調号が1つ違い=7音中6音が共通する5度上の属調や5度下の下属調、そして主音が同じで長短違いの同主調などが当てはまります。

遠いキーの場合でも一定のパターンを繰り返すシーケンス、転調の前後のキーに共通するピボットコード、音階の共通音/コモントーンをメロディーに使うことで転調がスムーズに聞こえやすくなるのがポイントです。困った時にはドミナントコードを置いて偽終止すればどんな調へも強引に転調できてしまうという最終手段もあります。

坂本真綾『Be mine!』サビのテンションが強烈なオンコード、コード進行とメロディーの関係の分析についてはこちら↓

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