坂本真綾『Be mine!』コード進行分析とテンションを使ったオンコード&分数aug

Be mine! コード進行(サビ)

TVアニメ「世界征服~謀略のズヴィズダー~」OPテーマの坂本真綾『Be mine!』

作曲はthe band apartで、Aメロ・Bメロで次々と繰り出される転調やイントロとサビの頭に出てくるかなり強烈なコードがとても印象的です。

今回は前編としてサビから前半8小節部分を分析しつつ、分数augを含むテンションノートを利用した特徴的なオンコードとメロディーの関係について詳しく見ていきたいと思います。

Be mine! - 坂本真綾 | Apple Music

コード進行表

Be mine! コード進行表(サビ1~8小節目)

1小節目: Daug/E

Daug/Eとリディアン♭7thスケール
Daug/Eとリディアン♭7thスケール

頭の強烈なコード「Daug/E」はE7(9,♯11)の3rdと5thを省略した形だと考えられます。キーF♯でE7(9,♯11)はIII7の代理ドミナントである♭VII7にテンション9thと♯11thが付いたコードです。

代理ドミナント(Substitute dominant)とは、ドミナント7thコードの特徴である3↔♭7の不安定な減5度が共通しているドミナントコードのことで、V7に対しては減4度下の♭II7です。III7はVIm7へのセカンダリードミナント(Secondary dominant)であり、ここでは「III7→VIm7」という元の形を想定して「♭VII7→Vlm7」に置き換わったと考えることができます。

代理ドミナントではリディアン♭7thスケールがよく使われます。このスケールには9・♯11・13のテンションがありますが、このテンションから9と♯11、そしてコードトーンの♭7を組み合わせるとaugコードを作ることができます。ドミナント上でオンコードを作る手法、アッパーストラクチャートライアド(Upper structure triad)の一種と考えることもできます。最近では作曲家の田中秀和さんがこの「分数aug」をよく使っていて話題になりました


1小節目: メロディーの工夫

『Be mine!』サビ1・2小節目のメロディーとコードの関係
坂本真綾『Be mine!』より

♯11thというとすごく特殊な音のように感じるかもしれませんが、ここでの♯11はA♯の音でちょうどキーF♯の7音にもとから含まれている音です。よく聞くとサビ全体のメロディーもすべてキーF♯の7音「f♯-g♯-a♯-b-c♯-d♯-e♯-f♯」だけで構成されていて臨時の♯・♭はゼロ、コード進行は複雑でもメロディー自体の流れはごく自然で歌いやすいものになっています。


1小節目: C♯/D♯

C♯/D♯とナチュラルマイナースケール
C♯/D♯とナチュラルマイナースケール

1つ前のコードはVIm7へのセカンダリードミナントIII7の代理ドミナント♭VII7だったので次に来るのはVIm7だと推測できます。V7→I進行を代理ドミナントで置き換えると♭II7→Iとなるように、代理ドミナントは半音下がって解決するのが普通です。

C♯/D♯は書き換えるとD♯m7(9,11)でVIm7に9thと11thが付いたコードです。ここでもマイナー7thコードのコードトーン♭7とテンション9th・11thを上手く組み合わせたオンコードを作っています。


2小節目: E/F♯ → B△7

E/F♯とミクソリディアンスケール
E/F♯とミクソリディアンスケール

E/F♯は書き換えるとF♯7sus4(9)、セカンダリードミナントI7が7sus4コードに変化したものです。こちらもアッパーストラクチャートライアドの一種とも考えられます。E/F♯に5thを足したC♯m7/F♯もそっくりな響きを持っていて、どちらもF♯7sus4(9)と同じ7sus4コードの機能をもつオンコードとして使うことができます。

7sus4コードについての詳細はこちら↓
7sus4コードの使い方 ―坂本真綾「幸せについて私が知っている5つの方法」を例に―
7sus4コードはドミナント的でもサブドミナント的でもある曖昧な性質から平行移動で進行させたり、転調に使われたりと独特な使い方がされるコードです。この7sus4に注目して坂本真綾『幸せについて私が知っている5つの方法』を分析してみます…

I7→IV△7と進行するので、1・2小節目だけIVメジャーキー(Bメジャーキー)のようにも感じさせる独特の浮遊感を出してます。


3~4小節目: Fm7(♭5) → A♯7 → D♯m7

「Fm7(♭5) → A♯7 → D♯m7」はD♯mをIと見たときのツーファイブ(IIm-V-I)進行です。解決先がマイナーのときIIm7の代わりにIIm7(♭5)を置くことがよくあります。

4~6小節目: C♯m7 → Cm7(♭5) → Bm6

4小節目のC♯m7(Vm7)は、IVをIと見たときのツーファイブ「Vm7→I7→IV」の形でよく見かけます。IVメジャーキー(ここではBメジャーキー)からの借用和音にあたります。

5小節目ではI7の代わりに♯IVm7(♭5)を置くことで「C♯m7 → Cm7(♭5) → Bm6 → A♯m7」とベースが綺麗に半音ずつ下がる進行になっています。IVのところにはB△7の代わりにBm6(IVm6)のサブドミナントマイナーが置かれています。

7~8小節目: C♯7 → Ddim7 → Daug/E → C♯/D♯

4~6小節目の綺麗な半音下行から一転して、7~8小節目では力強さを感じるような2度ずつ上行する進行になります。

この後、サビ頭のコード進行に「C♯7 → Ddim7 → Daug/E → C♯/D♯」とつながります。Ddim7…♯Vdim7は「V7 → ♯Vdim7 → VIm7」と半音の滑らかな進行を作るパッシングディミニッシュ(Passing diminished chord)として使われることが多いのですが、ここではさらにトリッキーに冒頭の代理ドミナント♭VII7を間に挟んで「V7 → ♯Vdim7 → ♭VII7 → VIm7」と進行しています。

おわりに

代理ドミナントでは9・♯11・13、マイナーコードでは9・11がテンションとしてよく使われます。このようなテンションを使うとき、コードトーンとテンションを上手く選んで組み合わせることで「Cm7(9,11) → ルート+7+9+11 → B♭/C」のようにオンコードを作ることができます。

坂本真綾『Be mine!』はサビも強烈でしたが、AメロとBメロにも鮮やかな転調のテクニックが盛り沢山で飽きさせない曲になっています。転調の種類別のテクニックに注目しながらコードとメロディーの分析をしてみたのでこちらも合わせてチェックしてみてください↓

坂本真綾『Be mine!』コード進行分析と転調の種類別のテクニック
サビのメロディーはF♯に収まっていましたが、A・Bメロはほぼ2小節ごとに転調を繰り返すかなり攻めたコード進行です。この転調を自然に聞かせるためのコードとメロディーの工夫に注目しながら、転調のテクニックを詳しく分析してみます…