「ゆるキャン△」第1話に見るBGMの意味と役割―映像との相互作用による演出効果―

ゆるキャン△第1話BGMにおけるライトモチーフ

TVでの連続放送のために先に作った音楽をあとから映像に合わせる制作方式ですが、監督と作曲家が作品のストーリーから必要な音楽を綿密に計算していて、特にBGMがジャストで当てはまった1話のクライマックスシーンは印象に残った方も多いのではないでしょうか。

キャンプや自然の風景に合うように世界各地の民族音楽の要素も取り入れて作曲されたアコースティックな音楽はそれだけでも魅力的です。

一方で音楽と映像が合わさることで映像を観る人に対して意識的にも無意識にも心理的な影響を与え、作中での映像や音楽の印象も変わってきます。こうした映像音楽の性質を活用した、作品に深みを与える演出の手段としてのBGMについて考えていきます。

ゆるキャン△ 第1話「ふじさんとカレーめん」 - ニコニコ動画

時間の表記はこちらの動画を基準にしていきます。『ゆるキャン△』公式ニコニコチャンネルから第1話のみ会員登録なしで見ることができます。

目次はこちら

  1. BGMで作品全体の雰囲気を彩る
    1. 自然を感じさせる音楽ジャンル
    2. キャンプをテーマにした楽器選び
    3. キャンプ場の個性をBGMで描き分ける
  2. BGMの流れ始めるタイミングと意味
    1. 登場人物の視点と俯瞰の視点
    2. 心情の変化の暗示
  3. BGMでシーンにまとまりを作る
    1. カットを繋ぎ合わせる
    2. ◯◯シーンのテーマ曲
  4. BGMが無くなることによる効果
    1. ギャグシーンでの突然の中断
    2. BGMの切れ目と脳活動
    3. 音と無音のバランス
  5. BGMで伏線を張る
    1. ライトモチーフ
    2. モチーフの変形と再提示
  6. 追記:2期1話のライトモチーフと心理描写
  7. おわりに
  8. 参考文献

1. BGMで作品全体の雰囲気を彩る

1-1. 自然を感じさせる音楽ジャンル

例えばクラシカルな音楽は上品な雰囲気を、カントリー音楽で使われる楽器バンジョーはコミカルな雰囲気を連想させたりというように、音楽のジャンルや楽器の音色だけでも聴く人の受ける印象はずいぶんと変わります。そこでBGMの音楽ジャンルや使う楽器を一つの作品の中である程度そろえることがよくあります。

『ゆるキャン△』BGMの作曲担当は立山秋航さんです。立山さんによればリクエストは「自然を感じさせる音楽」でケルト音楽も候補として上がりましたが、それではファンタジーな雰囲気を連想する場合もあるためジャンルを広げて、アメリカやヨーロッパを中心とした「世界のフォークミュージック」そして「アコースティックサウンド」をキーワードに制作を進めたとのことです [Sound Designer 2018]。

全体としてはアメリカのカントリー音楽の要素が大きく、加えてアイルランドやスコットランドの伝統音楽を始めとしたケルト音楽、ヨーロッパ・アルプス地方の音楽、2期では南米・アンデス地方のフォルクローレといったように世界各地の様々な民族音楽の要素が詰め込まれています。

ケルト音楽の楽器や特徴に関してはこちら↓
ケルト音楽とは?―使われる楽器・音楽の特徴―
ケルト音楽とは?―楽器・歌と音楽の特徴―
ケルト音楽 (Celtic music) とはケルト語や関連文化を残すケルト系民族の住む国や地域「ケルト文化圏」の音楽であり、アイルランド、スコットランド、マン島、ブルターニュ、ウェールズ、コーンウォールと大西洋岸の6地域にまたがり、また繋…

中でもこちらの『野クルの時間 (わちゃわちゃ!)』は楽器の音色のインパクトが強くて気になっていた方もいるかと思います。アメリカのカントリー音楽の一種「ジャグバンド」のスタイルの曲です。

よく大道芸やコメディーとともに演奏されていた音楽ジャンルで、簡単に手作りできるような楽器を多く使うのも特徴です。トロンボーンの音色のように歪んで聞こえる楽器はカズー(管に張った膜を振動させる楽器)、後ろでカタカタ鳴っている打楽器はウォッシュボード(洗濯板のギザギザを爪でこする楽器)です。

野クルの時間 (わちゃわちゃ!) - 立山秋航 | Apple Music

1-2. キャンプをテーマにした楽器選び

音楽ジャンルが少し広い代わりに、楽器の選定は念入りに考えて進めたことを立山さんがインタビューで語っています。いずれも作品のテーマである「キャンプに合うか」が大切な基準になっています。

簡単に持ち運んで演奏できることを基準にして、室内やホールを連想するピアノはあまり用いないように意図されています。打楽器もドラムやコンガのような大きくしっかりした物ではなく、遊びで食器を鳴らすイメージで素朴なもの、少人数でゆるくキャンプを楽しむシーンに合わせて大編成のオーケストラではなく小編成…というように雰囲気を統一させています。

  • 「ほとんど使わない楽器」ということであれば、ピアノは今回「禁じ手」にしました。(中略)―それは、キャンプ場にピアノは持っていけないからでしょうか?― そうです。
  • キャンプ場で、食器を鳴らしてリズムを取っているようなイメージにしたら面白いんじゃないかと。
  • 大編成のオーケストラを使うことは少なかったです。少人数でキャンプを楽しんでいるシーンに大編成の音楽が鳴るのは、少し違和感があると思いまして。
音楽クリエイター特集 ―立山秋航― [Sound Designer 2018]

1-3. キャンプ場の個性をBGMで描き分ける

もう少し細かく見てみると、この作品で非常に重要な立ち位置であるキャンプ場に対してはキャンプ場ごとにその個性を表現したテーマ曲が用意されています。通常は登場人物の個性や心情に関わるBGMが多い中、この作品では風景の描写に重きを置いたことを京極義昭監督が語っています。

漫画と一番違うのは音楽がつくところなので、雰囲気をしっかり出すために音楽にはこだわりました。具体的に言うと、普通のアニメではキャラクターの心情やシーンの雰囲気に合わせて音楽をつけるのですが、この作品ではキャラクターよりも情景に音楽をつける意識でオーダーしています。

京極義昭監督インタビュー [千葉 2018]
キャンプ場のテーマ〜四尾連湖〜 - 立山秋航 | Apple Music

連続モノの番組では映像の制作前にBGMを作っておいて後から選曲する方式が一般的で、様々なシーンに使いやすいよう汎用的な曲も多くなるのですが、重要なシーンについては専用のBGMを用意することがあります。作品全体の雰囲気はもちろん、こうした場所ごとの雰囲気の違いが映像だけでなくBGMでも書き分けられているところに、キャンプの描写に対する力の入れ具合がうかがえます。

2. BGMの流れ始めるタイミングと意味

2-1. 登場人物の視点と俯瞰の視点

オープニングテーマの後は志摩リンがキャンプ場に向かうシーンから始まります。ここでは道沿いの風景と志摩リンが自転車を漕ぐ様子が交互に映し出されます。ここで流れる『ソロキャン△のすすめ』はシーンの開始ではなく、2:44の志摩リンの顔がアップで描かれるカットから始まっていて、風景だけではなく登場人物の性格もBGMが象徴しているように感じられます。

キャンプ場のテーマ曲と流れ始めるタイミング

キャンプ場のBGM『キャンプ場のテーマ ~本栖湖~』も到着後すぐに流れる訳ではありません。5:15からの林の中を通り抜けるカットと、自転車を停めて本栖湖を眺めるカットの後、画面全体に本栖湖と富士山の風景が映し出される5:23から流れ始めます。作品を観る側の俯瞰的な視点でBGMを流す場合もありますが、このように登場人物の視点と心情に寄り添ったタイミングでBGMを流すことで、視聴者も登場人物と同じタイミングで同じ気持ちを共有しやすくなります。


2-2. 心情の変化の暗示

ゆるキャン△のテーマ - 立山秋航 | Apple Music

エンディングテーマ直前にも登場人物の心情に寄り添ってBGMが流れ始めるシーンがあります。志摩リンは各務原なでしこの乗った車が出るのを見送って、反対側を向いて歩き始めます。すると不意に「ちょっと待って!」の声がして、後ろを振り返った19:44で明るいBGM『ゆるキャン△のテーマ』が流れ始めます。続いて「カレーめんありがとう」となでしこに言われて何かハッとした顔をします。

志摩リンはソロでキャンプを楽しんだりと一人の時間を大切にしたいタイプのキャラです。そんな中、偶然にも短い時間ですがキャンプ場で一緒に時間を過ごしたなでしこに対して、不思議と嫌な気持ちはしません。無表情で少し感情が分かりにくい志摩リンの心情描写をサポートするポジティブな曲です。BGMには映像では表現しきれない登場人物の心理やストーリーの進行を補佐したり暗示する役割もあります [石丸 2009]。

3. BGMでシーンにまとまりを作る

3-1. カットを繋ぎ合わせる

今度は中盤の薪集めのシーンで流れるBGM(本栖湖キャンプ場のテーマの中間部)に注目してみます。大塚明夫さんの渋い声でナレーションが入ってキャンプの豆知識を解説したり松ぼっくりが喋ったりと、他と比べると少し異色なシーンです。シーン全体にひとつのBGMが付くことで豆知識を解説するシーンが続いていることを視聴者が理解しやすくなりますし、ナレーションが登場人物のセリフではないこともよりハッキリします。

時間のゆるやかな経過を表すカットの連続とBGM

次の焚き火の解説シーンからはBGM『ソロキャン△のすすめ』が使われます。BGMの展開とともに11:10からは時間帯の違うキャンプ場のカットをいくつも繋げて、ゆるやかに時間が過ぎていく様子を表現しています。このように複数のカットを繋ぎ合わせてシーン全体に別の意味をもたせる手法はモンタージュ(montage)と呼ばれます。すっかり夕暮れとなるシーンの終わりではBGMも一緒に終わることで、大きく時間がジャンプする次のシーンへの移行を分かりやすくしています。

ソロキャン△のすすめ - 立山秋航 | Apple Music

3-2. ◯◯シーンのテーマ曲

映像作品ではカメラが一度に撮影できるひと続きの映像「カット」が切り貼りされて「シーン」ができます。現実世界では起きないようなカットの繋ぎ目での映像の急な変化を和らげるためにも、シーン全体にBGMを付けることはよく行われます [吉松 2009]。

こうしたBGMの使い方として分かりやすいのが、〇〇シーンのテーマ曲と呼ばれるようなBGMです。12:53で志摩リンが逃走するときに流れるチェイスシーンのテーマ『キャンピングinポッシブル』や、13:12からのギャグシーンBGM『ゆるやかな時間』がその例です。アコースティックなBGMの中で異様に目立つエレクトロサウンドでギャグ効果も狙ってるのかもしれません。

キャンプ行こうよ! - 立山秋航 | Apple Music

16:01からなでしこがカレーめんを食べる場面で流れるBGM『キャンプ行こうよ!』は、第2話の冒頭や再開のシーンでなでしこが登場するときにも流れます。アニメ序盤では「なでしこのテーマ曲」のような使われ方がされるBGMです。登場人物のテーマ曲は繰り返し登場人物と一緒に流れるので、逆に曲が流れることでその登場人物を連想させることもできます。

4. BGMが無くなることによる効果

4-1. ギャグシーンでの突然の中断

BGMを流すことで逆にBGMが流れない部分を目立たせることもできます。例えばBGMを突然中断する技法はギャグシーンでよく使われていて、このゆるキャン△第1話でも志摩リンとなでしこが初めて会話をするシーンで突然中断するポイントが2か所あります。どちらもなでしこのボケるところで、ちょうどBGMが無くなって無音になったタイミングでお腹の音が響き渡ります。

ギャグシーンとBGMの突然の中断
ゆるやかな時間 - 立山秋航 | Apple Music

こうしたギャグシーンでBGMを中断する演出は次回予告の手前、「へやキャン」のコーナーでも使われていて、無音になった後すぐに犬山あおいのツッコミが入ります。23:04でBGMを中断した後はすぐに次のBGMが流れるのですが、BGMとBGMのあいだに無音部分がないと少しせわしない印象になるのをテンポ感が重要なギャグシーンにうまく利用しています。


4-2. BGMの切れ目と脳活動

BGMを突然中断するのも強烈な効果がありますが、BGMが自然に終わってしばらく無音になるのも注意が引きつけられるタイミングのひとつです。1話の序盤は志摩リンをメインに話が進みますが、4:03と9:28で最重要人物のなでしこが寝ている様子を映す短いカットが挟まれます。どちらもちょうどBGMの終わるタイミングに重ねることで印象を強めています。

第1話のエンディングテーマ曲はそのままストーリーと映像が進行しながらセリフや効果音とともに流れますが、曲の終わるちょうど22:34頃にやはり志摩リンとなでしこがニアミスする重要カットが挟まれます。

ふゆびより (弾きがたりver.) - 立山秋航 | Apple Music

Sridharanらによって行われたクラシック音楽を聞いている最中に脳活動を測定する実験では、楽章間の無音になるタイミングで脳が大きく活動することが確認されました。ヒトが現実世界の出来事をこうした音が大きく変化する場所で区切って整理・記憶している可能性が指摘されています。[Sridharan+ 2007]

小説では例えば章を分けることで区切りを作ることができますが、映像では一瞬で次のシーンへと進んでしまいます。この実験結果を踏まえると、映像作品の意味上の区切り・シーンに応じて適切にBGMを付けたり終わらせたりすることで、ストーリーを整理して理解し記憶に定着させやすくする効果があると言えそうです。


4-3. 音と無音のバランス

なでしこの目線で始まる冒頭の1分程のシーンはBGMがありません。第1話の他のどのシーンとも時間のつながりがなく伏線としての意味もありそうな重要シーンになっていて、あえて無音にすることで焚き火の音や周囲の環境音を引き立たせると同時に映像にアクセントを付けています。

1話の他の部分でもおおよそ、BGMが終わってから次のBGMが始まるまでに一定の間隔が設けられています。音が大きく変化すると脳も大きく活動するということは、逆に言えばBGMが延々と流れ続けたり、長い間BGMが無くセリフや環境音だけだったりと同じような音の状態が長く続くと耳や脳が鈍感になってしまいます。

BGMを流す・流さないを交互に繰り返すことで定期的に耳や脳の活動をリフレッシュして、BGMはもちろんキャンプ場の空気感を出すために重要な環境音も引き立たせることができるのです。

また初期の映画音楽では映写機の音がうるさく、BGMはこの映写機の雑音をかき消すという意味ももっていました [Kalinak 2001]。無音は人に緊張感を与えるほか、周りの生活音や雑音に気を取られて現実世界に引き戻されてしまうこともあるので、現在でもこうした雑音をかき消すためにBGMを付けるのには意味があります。もちろん先ほどの例のように短い時間であれば無音は良いアクセントになります。

5. BGMで伏線を張る

5-1. ライトモチーフ

本栖湖キャンプ場のライトモチーフ(昼)

ここからは16:48頃からのゆるキャン△第1話のクライマックスシーンを見ていきます。遡ると5:23の昼間の本栖湖と富士山の風景カットにも対応するシーンです。BGMもよく聴くと昼間のシーンで流れたBGMのアレンジになっています。

短いメロディーや音のパターンをキャラクターやイベントと結び付けたり、またその変化を音のアレンジにより暗示する手法はライトモチーフ(Leitmotif)と呼ばれます [Gustavo 2004]。昼間のシーンでは湖に到着した直後の5:33や5:45などで、ティンホイッスル(ケルト音楽で使われる笛)で演奏・提示される本栖湖のライトモチーフを聞くことができます。このモチーフは同じく昼間の薪集めのシーンで流れるBGMにも少しだけ使われています。

キャンプ場のテーマ〜本栖湖〜 - 立山秋航 | Apple Music

5-2. モチーフの変形と再提示

暗闇の中で本栖湖と富士山を覆う雲が一瞬だけ画面に映る16:48から、『キャンプ場のテーマ ~本栖湖~』の後半部分が聞こえるか聞こえないかくらいの小さな音量で流れ始めます。少しずつ月明かりが差し込み始める伏線のカットを挟み、18:16でついに本栖湖と雲がとれた富士山の風景が映し出されると同時にライトモチーフがもう一度提示されて、ここで伏線が回収されます。

モチーフを詳しく見ると昼の場面の単純なアレンジではなく、少し手が加わっています。1オクターブ上の高いところで演奏されていたり、昼の歯切れのよい演奏とは違って音がより長く伸ばされていたりと、雲がなくなり一気に視界が開けた様子を描写しているようです。

本栖湖キャンプ場のライトモチーフ(昼から夜への変化)

映像と同じようにBGMも少し手前から一気に盛り上がってちょうど18:16でクライマックスを迎えます。先ほど音が大きく変化する場所で脳も大きく活動するという研究を紹介しましたが、ここでは音楽を大きく展開させることで視聴者の注意を引きつけています。映像音楽では曲の途中で曲調が大きく変化すると映像の印象も大きく変えてしまうので避けられることが多いのですが、こうした場合は例外です。

追記:2期1話のライトモチーフと心理描写

1期1話とはどこか違う本栖湖キャンプ場

2期1話のAパートは志摩リンが本栖湖キャンプ場で初めてキャンプに挑戦した過去の話で、時系列で言えば1期1話の方が後になります。オープニングテーマが終わる4:00から1期とそっくりのカットが続き、4:14からはBGMのイントロ、4:30からはBGMのメロディーが流れ始めます。

本栖湖キャンプ場(2期)のメロディー

1期のBGMの雰囲気に似ている気もしますが、メロディーに関しては1期の本栖湖キャンプ場のテーマ曲と明確に異なっています。1期とまったく同じ本栖湖キャンプ場のはずなのに、この時点ではまだどこか違うという感覚があるのです。この場合、主人公である志摩リンの心の中の感覚を描写していると解釈できます。志摩リンは初挑戦のキャンプで思うように行かず、失敗続きのまま夕方を迎えます。


本栖湖キャンプ場ライトモチーフの意味

序盤ではキャンプをのんびりと楽しむ余裕もなく、現在のようにソロキャンを楽しむ志摩リンの姿はまだ見えてきません。しかし母からの電話でカレーめんの存在に気づくと9:55からBGMも始まり流れが大きく変わります。特にBGMの展開部分と重なる11:12から心境が大きく変化します。

11:20では聞き覚えのあるメロディーが現れます。これは1期の本栖湖キャンプ場のモチーフの変形です。そして志摩リンの表情が変わるタイミング(11:35)の後、1期1話のクライマックスで流れたものと同じモチーフが演奏されます。この時のセリフが「木を切る道具、あと椅子か… お小遣いで買えるかな?」です。

クライマックスで提示される本栖湖キャンプ場(1期)のライトモチーフ

またキャンプに挑戦したいという11:35の決意の瞬間に1期1話で志摩リンとなでしこが出会う運命が決まったからこそ、ここで1期1話の本栖湖キャンプ場のライトモチーフが初めて使われたのです。続いて同時刻のまったく違う場所にカメラが切り替わります。志摩リンと同じように、なでしこが富士山を眺めるカットです。そして12:04には大きく時間をジャンプして現在のなでしこと志摩リンの映像につながります。

おわりに

BGMの雰囲気はもちろんですが、BGMの流れ始めるタイミングや流れ終わるタイミング、流し方によっても映像の印象は大きく変わります。選曲・音響効果の人が担当することになるBGM選びやその流し方、セリフ・効果音とのバランスの調整なども映像音楽には欠かすことのできない重要な作業です。

映画音楽では仕上がった映像を見ながら作曲家が付けていくフィルムスコアリングの手法が一般的ですが、連続もののドラマやアニメでは作品のあらすじを元に作曲家があらかじめ作っておき、後から選曲とBGM編集を行う溜め録りの手法が普通です。それでも後の選曲や音響効果の作業を見据えて作曲することで、これだけの映像に寄り添った音楽に仕上げることができます。

映画音楽・アニメ劇伴・ゲーム音楽におけるBGMの演出効果や分類についてはこちら↓
劇伴・ゲーム音楽の種類と役割について
映画・アニメ・ゲームにおけるBGMの役割や演出効果と種類―伊福部昭による4分類―
映像の中の世界で実際に音楽が流れていない場合でも、様々な効果を狙ってBGMを付けることが一般に行われています。伊福部昭は映画音楽の効用によって「時空間の設定」「感情背景の表現」「シークエンスの確立」「フォトジェニー」の4つの分類を提唱しまし…

参考文献

  • [Sound Designer 2018] サウンド・デザイナー (2018): “最先端を行く音楽クリエイター達 ― 立山秋航=「ゆるキャン△」”, 『サウンド・デザイナー 2018年3月号』.
  • [千葉 2018] 千葉研一 (2018): “「ゆるキャン△」京極義昭監督インタビュー:ロケハンを重ねてキャンプの空気感、料理、温泉まで魅力をすべて詰め込みました!”, 『アキバ総研』. (https://akiba-souken.com/article/32693/)
  • [石丸 2009] 石丸 基司 (2009): “作曲 雑感”, 『伊福部昭オフィシャルサイト』. (https://www.akira-ifukube.jp/オリジナルエッセイ/作曲-雑感①/)
  • [吉松 2009] 吉松 隆 (2009): “映画音楽の作り方”, 『月刊クラシック音楽探偵事務所』. (http://yoshim.cocolog-nifty.com/office/2009/11/post-b3e7.html)
  • [Sridharan+ 2007] Devarajan Sridharan, Daniel J. Levitin, Chris H. Chafe, Jonathan Berger, Vinod Menon (2007): “Neural Dynamics of Event Segmentation in Music: Converging Evidence for Dissociable Ventral and Dorsal Networks”, Neuron – Cell Press. (https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273%2807%2900500-4)
  • [Kalinak 2001] Kathryn Kalinak (2001): Settling the Score: Music and the Classical Hollywood Film. Madison, University of Wisconsin Press: p.41.
  • [Gustavo 2004] Gustavo Costantini (2004): “Leitmotif revisited”, Filmwaves, Vol. 23. (http://filmsound.org/gustavo/leitmotif-revisted.htm)