劇伴・ゲーム音楽の役割とアンビエント音楽による演出 ―BGMと映像のバランスについて―

劇伴・ゲーム音楽の役割とアンビエント音楽による演出

映画やアニメからゲームにいたるまで、BGMは作品が記憶に残るよう強く印象付ける手段として、またストーリーや心情の描写に関わる演出の手段として今では欠かせないものになっています。

今回は、最近のリアリティーを重視した作品でよく見かける環境音を引き立たせるためのアンビエント音楽に似た性質のBGMについて、アニメーション映画『言の葉の庭』やゲーム『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』を例に詳しく見ていきたいと思います。

また、こうした最近のBGMの流行スタイルを映画音楽の歴史を簡単に振り返って捉え直すことで、「アンビエントなBGMの使い所」や「映像と音楽のバランス」についても考えていきたいと思います。

目次

  1. 初期の映画音楽の歴史とBGMの役割
    1. サイレント映画時代
    2. トーキー映画時代
  2. ハリウッド黄金期の映画音楽
    1. リアルの再現とリアルな感覚の違い
    2. ハリウッド黄金期の映画とBGMの役割
  3. アンビエント音楽の利用
    1. アンビエント音楽とは?
    2. アニメ映画「言の葉の庭」を例に
    3. ゲーム「ゼルダの伝説 BotW」を例に
  4. 映像と音楽のバランス
    1. 近年の映画音楽の流行スタイル
    2. 良いBGMとは? 映像音楽の作曲法
  5. 参考文献

1. 初期の映画音楽の歴史とBGMの役割

1-1. サイレント映画時代

映画の映写機
by Noom Peerapong, Unsplash

音を映像に同期させて再生する技術がまだ存在しなかった最初期の映画は、音声トラックのないサイレント映画(Silent Film)でした。代わりにその場で弁士がナレーションを付けたり楽士が音楽や効果音を流したりしていました。

音楽には演出のほかに実用的な面でも大きな役割がありました。ひとつは観客に強い緊張感を与える無音状態を音楽で和らげる役割です。

騒音はストレスに繋がりますが、逆に完全な無音もストレスを感じさせる要因になります。心理学における感覚遮断の研究では注意力や思考力の低下をもたらすことが明らかになっています。特に劇場の暗く閉じられた空間では、音が聞こえることによる安心感には非常に大きいものがあります。

ほかには周囲の気になってしまう物音や雑音を音楽で覆い隠す役割もありました。当時はまだ動作音が大きかったプロジェクターの雑音への対策にもなりました [Kalinak 2001]。音楽を付けることで観ている人の気が散らないようにするというのは、映画に限らずカフェやテーマパークなど様々な場面で応用されています。

1930 – Silent film pianist gives demonstrations (w/ matching newsreels)
サイレント映画ピアニストのニュース映像に合わせたピアノ演奏実演

1-2. トーキー映画時代

音声トラックを付けることが可能になった映画はトーキング・ピクチャー、縮めてトーキー(Talkie)と呼ばれました。撮影と同時に録音することは一般的になり、この新しい技術を追求して映像そのままのリアルな音を目指す映画が生まれた一方で、従来のオペラや劇作品のように全編に渡って音楽を付ける映画とに分かれました。

リアルな音を目指す映画では、現実世界なら鳴っていないはずのBGMはオープニングやクライマックスを除いて避けられる傾向にありました。それでも音楽を諦めたわけではなく、映像の中に楽器の演奏家を登場させるという理由を作って音楽を付ける試みも盛んに行われました。

この両者の流れがどうなったか、結論から言うとリアルな音を目指す試みの方が大きな壁に阻まれてしまいました。カメラのすぐ横にマイクを置けば映像そのままのリアルな音が録れるはずなのですが、ここに大きな落とし穴がありました。

2. ハリウッド黄金期以降の映画音楽

2-1. リアルの再現とリアルな感覚の違い

映像そのままのリアルな音が上手く行かなかった要因について、フランスの作曲家・映画理論家のミシェル・シオン(Michel Chion)は次のように指摘しています。「スクリーンの枠」という舞台の制約と、異なるカメラ視点の映像を繋ぎ合わせてストーリーを作る映像作品の基本的な手法「モンタージュ」です。

  • 「リアリズム」(つまり、現実の忠実かつ完璧な再現)と呼ぶものと、「リアルな効果」(観る者が見せられたものに強く引きつけられること)の間の根本的な不一致にまで遡って考える必要がある。
  • 音の空間的なリアリズムをあまりに推し進めると、フレーム内フレーム外をめぐる物や人物の移動に関して三次元の正確な音の座標が再現し(中略)あまりに具象的であるがゆえに映画の基本的な約束事を再検討せざるを得なくなる。
ばらばらになった空間 [シオン 1993]

スクリーンがあることで逆にその外には想像の余地が広がっていて、スピーカーが正面にあっても脳内で音の方向や距離について補正がかります。また、登場人物が喋っている最中に視点や距離が異なるカメラに切り替わっても、セリフの鳴る位置や音量はそのままというのもよくあることです。

もし過度にリアルな配置をすると、音がスピーカーの位置に具体化されて想像の中で広がっていた空間が偏狭なものになったり、カメラ視点の切り替わりで音の位置と矛盾が生じてかえって不自然に感じることがあり得ます。逆にセリフや効果音、音楽が連続的に聞こえることで、異なるカメラ視点の映像をひとつのシーンにまとめ上げることができます。


2-2. ハリウッド黄金期の映画とBGMの役割

リアルそのままの音では上手く行かないことが分かると、聴感上で自然に聞こえることを基準にしたり、映像と音の関係で起こる錯覚のようなものを利用した演出が追求されるようになりました。トーキー映画で避けられる場合もあったBGMも、これまでサイレント映画やオペラで行われてきたように普通に使われるようになりました。この流れを決めたのがマックス・スタイナーです。

映画『キング・コング』
映画『キング・コング』

1930年代、ハリウッド映画を代表する作曲家のマックス・スタイナー(Max Steiner)は本来は音楽が鳴っていないはずの場面も含めて、映画全体に渡って音楽を作曲して成功を収めました [MacDonald 1998]。ちょうどハリウッド黄金期と呼ばれる時代の出来事です。

特に1933年公開の映画『キング・コング(King Kong)』の音楽はライトモチーフを効果的に用いたことで知られています。ライトモチーフ(Leitmotif)とは、短い音楽フレーズをキャラクターやイベントと結び付け、またアレンジをすることでそこで起こる変化を暗示する手法です。

19世紀頃ワーグナーがオペラに導入した音楽演出の技法でした。映像を音楽で強調・印象付けたり、ストーリーや登場人物の心情を音楽で暗示する演出が一般的になり、ほぼ現在のようなBGMの使い方になります。

3. アンビエント音楽の利用

3-1. アンビエント音楽とは?

アンビエントミュージック(Ambient Music)』は1970年代に作曲家のブライアン・イーノ(Brian Eno)が提唱した音楽です。環境音楽とも訳される音楽で、小節の区切りや拍があいまいでハッキリとしたメロディーが無いのが特徴です。当時普及し始めていたシンセサイザーによる楽器音や電子音をメインに使ったブライアン・イーノの音楽は、その後のニューエイジミュージックといったジャンルにも大きな影響を与えています。

1/1 - ブライアン・イーノ | Apple Music

1978年のアルバム『Ambient 1: Music for Airports』の1曲目「1/1」です。イーノが初めて「アンビエントミュージック」という名前を付けて制作したのがこのアルバムです。イーノはこのアルバムのライナーノーツでアンビエント音楽について次のように語っています。

彼の言葉によればアンビエント音楽は聴き方をひとつに強制するものではなく、意識せずに聞き流すこともでき、かつ注意を向けて聴けば面白いものでないといけないとのことです。また、アンビエント音楽を流すことによって落ち着きを取り戻すことを促したり、深く考えるための余白を作ることも目的としていたようです [Eno 1978]。

Ambient music must be able to accommodate many levels of listening attention without enforcing one in particular; it must be as ignorable as it is interesting.

1: Music for Airports [Eno 1978]

エリック・サティの「家具の音楽」

ブライアン・イーノのアンビエント音楽に似た特徴や思想をもつ音楽は以前からもあり、特にエリック・サティの家具の音楽(musique d’ameublement)が挙げられることがよくあります。家具のように周囲の環境に溶け込んで音楽に対して意識を向けることを強要せず、また気まずい沈黙や気になる生活音を音楽によって和らげて、会話が弾むようにという意図をもって作られました。


3-2. アニメ映画『言の葉の庭』を例に

一般に映画では静かでアンビエント音楽のようなBGMが多く、ドラマやアニメでは個性のあるハッキリしたBGMが多くなります。いくつか要因が考えられますが、まず静かで集中できる映画館と様々な音が飛び交う自宅という視聴環境の違いがあります。1~2時間の長さで深く考えさせるテーマのある映画と、30分ほどで起承転結が一周するドラマやアニメというのも大きく異なる点です。特にアニメは絵それ自体がデフォルメされた表現によって成り立つ作品形式です。[高野 2016.2]

一方で、最近のアニメ作品の中には細部まで丁寧に描き込まれたものも見られるようになりました。そうした作品では自然と映像に付けられる効果音・環境音も多くなるため、場面によっては効果音・環境音を邪魔しないように空気感を補うような音楽が付けられることがあります。

A Rainy Morning ~Main Title~ - kashiwa daisuke | Apple Music

新海誠監督による『言の葉の庭』ではBGMが主体になるシーンとは別に、自然の音や生活音などの環境音が主体になることで映像のリアルさ・美しさを強調するようなシーンが出てきます。とりわけ「雨」はこの作品の重要なテーマのひとつにもなっていて、こうしたシーンのBGMにはピアノだけを使ったシンプルな構成のものが多く、繊細な環境音をかき消さないような工夫がされています。[高野 2016.6]


3-3. ゲーム「ゼルダの伝説 BotW」を例に

ゲームの場合、どのような順番で映像が進行してBGMが流れるかはゲームプレイヤーによって様々で、これは映像作品と大きく異なる部分です。特に最近の流行である広大な世界を自由に探索する「オープンワールド」型のゲームでは、ストーリーの進行順さえも人によってバラバラになります。

ゼルダの伝説3Dシリーズで昨今のオープンワールド型に初挑戦したのが『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』でした。開発当初はプレイヤーの行動を誘導しないで自由に探索してもらうためにBGMを減らしたものの、同じ場所にいると音に変化がなくなってしまったり、どこに行っても同じような雰囲気になってしまうという問題が発生しました。そこで導入したのが「環境BGM」と「スポットBGM」の2種類のBGMです [岩泉 2017]。

「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」メイキング映像 その3 オープンエアというコンセプト
official Nintendo YouTube channel

「環境BGM」は探索中に聞こえてくる風や水の音といった環境音、動物や敵の声などの効果音を邪魔しないアンビエント音楽に近いタイプの音楽です。あらかじめピアノのフレーズを用意しておき、再生するタイミングをずらしたりフレーズごとにランダムに再生することで毎回少しずつ違ったBGMになるように工夫されています。

最近のゲームでは各ステージが巨大化していたり、ゲーム自体のボリュームも増えて同じステージに留まっている時間も増えました。長時間同じ場所にいても飽きが来ないように、BGMのバリエーションを増やしたりランダム性を持たせる工夫は今後ますます必要になりそうです。

「スポットBGM」は町や村で流れるような場所ごとの雰囲気をハッキリと表す音楽です。フィールドの探索中は自然の音や、敵が近づく音も含めて様々な音が聴こえてくる反面、プレイヤーの緊張を強いて集中力も必要とします。スポットBGMのように密度のある音楽が流れて環境音がいくらか隠れることでプレイヤーに安心感を与えるという側面もあります。

『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』における環境BGM
多種多様な環境音・効果音が聞こえる『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』のフィールド

4. 映像と音楽のバランス

4-1. 近年の映画音楽の流行スタイル

こうしたアンビエント音楽に近い発想は映画音楽においても存在感を増してきました。もともと映画では明暗のハッキリしない複雑で微妙な状況や心情を表現する機会が多く、オーケストラ楽器の音色・奏法の組み合わせで雰囲気を表現するテクスチャー(Texture)というアイデアが多用されてきました。

Is It Poison, Nanny? - ハンス・ジマー | Apple Music

2000年代以降、作曲家ハンス・ジマー(Hans Zimmer)はこの考えをさらに推し進めて、楽器の代わりに効果音的な音や音響効果を駆使してテクスチャーを作るスタイルを流行させました。また、近年流行のエレクトロニック・ミュージックのスタイルも映画音楽に取り入れられるようになり、コンピューター上でオーディオループ(短い音楽パターンの素材)を繰り返しながら、映像に合わせて音楽を少しずつ展開させるタイプのBGMも増えました。

こうした流行の一方で、作曲家ジョン・ウィリアムズ(John Williams)による映画『スター・ウォーズ』の音楽に代表されるような、メロディー重視の印象的なBGMの割合は減ってきていると言えるかもしれません。近年サウンドトラックの売り上げが思わしくなかったり、そもそも発売されないケースが増えた背景には(配信・サブスク化といった変化以外に)こうした要因もあるのではという指摘があります。[田中 2013]

少し遡ればハリウッド映画においてもジョン・ウィリアムズという、ハンス・ジマーと相異なるスタイルの作曲家がいるように、今は猫も杓子もという流行をひとまず取り入れて試してみようとする動きが目立っているのかもしれません。


4-2. 良いBGMとは? 映像音楽の作曲法

ハリウッド映画黄金期に活躍したマックス・スタイナーは、映画音楽はコンサートで聴く音楽とは違うものであってあくまで映像のためにあるべきだと考えていました。しかしこうした意見は誤解されることもあったようです。

「(映像の邪魔にならないように)鳴っていると気付かれないような音楽がいい」と言われることに対してスタイナーは「鳴っていることに気付かない音楽が何の役に立つのか?(それでは意味がない)」と問いかけていました。コンサートで聴くような種類の音楽ではないが、心で何かを感じられるような音楽であるべきというのが彼の考えでした。

My theory is that the music should be felt rather than heard. They always used to say that a good score was one you didn’t notice, and I always asked, ‘What good is it if you don’t notice it?’

Max Steiner interviews [Thomas 1996]

スタイナーは本来聞かせたいセリフや効果音を聴き取れるように、同じ周波数帯域の楽器を多用しないように注意して作曲をしていました [Wegele 2014]。これはマスキング効果として知られている現象を応用したものです。他にもセリフを聴かせたい場面でBGMに必要以上の注意を引きつけない方法として、速いテンポやシンコペーションなどの特徴的なリズム、メロディーの大きな動きや音の多さを避けるといった選択肢もあります [Davis 2010]。

人間の脳には多少の聴こえない部分を自動的に補って、うまく会話や音声を聴き取れるようにするカクテルパーティー効果といったものもあります。邪魔しないようにという後ろ向きな発想よりは、作品のストーリーや心情の描写に深みを加える演出の1手段として活用していく姿勢が必要ではないでしょうか。

映像作品の演出のために使われるBGMの種類と役割に関してはこちら:
映画・アニメ・ゲームにおけるBGMの種類と役割 ―劇伴・ゲーム音楽による演出効果―

アンビエントな音楽は他の音を邪魔しないという便利な面を持ちますが、一方で音の変化が少なく印象に残りづらかったり、どの場面も似たような雰囲気になってしまう可能性もあります。場面に応じて必要なタイプの音楽を使い分けることでBGMの面でもメリハリをつけることが重要です。

参考文献

  • [Kalinak 2001] Kathryn Kalinak (2001): Settling the Score: Music and the Classical Hollywood Film. Madison, University of Wisconsin Press: p.41.
  • [MacDonald 1998] Laurence E. MacDonald (1998): The Invisible Art of Film Music: A Comprehensive History. Scarecrow Press: pp.24-25.
  • [Eno 1978] Brian Eno (1978): liner notes of Ambient 1: Music for Airports.
  • [高野 2016.2] 高野 裕也 (2016): “アニメーションの劇伴にはどんな特徴がある? 『犬夜叉』など国内外の作品をもとに解説”, Real Sound. (https://realsound.jp/2016/02/post-6194.html)
  • [高野 2016.6] 高野 裕也 (2016): “新海誠作品の劇伴は「環境音による補佐」がポイント? 『言の葉の庭』から読み解く, Real Sound. (https://realsound.jp/2016/06/post-8046.html)
  • [岩泉 2017] 岩泉 茂 (2017): “【CEDEC2017】「ゼルダの伝説」で、自由度の高い「オープンエアー」の表現を支えるサウンド”, GAME Watch. (https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1078827.html)
  • [田中 2013] 田中公平 (2013): “BGMは変わってしまった”, 田中公平のブログ My Quest for Beauty. ((https://ameblo.jp/kenokun/entry-11463344790.html)
  • [Thomas 1996] Tony Thomas (1996): “Max Steiner: Vienna, London, New York, and Finally Hollywood”, The Max Steiner Collection. (http://files.lib.byu.edu/ead/XML/MSS1547.xml)
  • [Wegele 2014] Peter Wegele (2014): Max Steiner: Composing, Casablanca, and the Golden Age of Film Music. Rowman & Littlefield Publishers: pp.38-39.
  • [Davis 2010] Richard Davis (2010): Complete Guide to Film Scoring. Berklee Press: pp.145-146.