映像に合わせて音楽を作るフィルムスコアリング ―カット・シーンとシンクポイントについて―

フィルムスコアリング

映画を始めとした映像作品は様々な距離・角度で撮影されたカットが切り貼りされたり、違う空間や時間のカットに繋がったりすることで複雑な意味をもつ芸術作品です。非常にダイナミックではある一方で、ストーリーがすぐさま視聴者に伝わって理解されるとは限りません。

そこで映像だけでは表現しきれない雰囲気や空気感を音楽で表現したり、視聴者が重要な場面やアクションを見過ごさないように、また記憶に強く残るようにその瞬間を音楽で強調するといったことが有効になってきます。

出来上がった映像に対して、あとからオリジナルの音楽を書き下ろして付けることはフィルムスコアリング(Film Scoring)と呼ばれます。制作時間に余裕がある映画でよく採用される手法で、特に重要なシーンでは映像に合わせて音楽のタイミングがコンマ秒単位で微調整されます。

目次

  1. フィルムスコアリングのデモ
  2. カットとシーンを考える
  3. シンクポイントを設定する
  4. シンクポイント間の拍子・BPMを計算する
  5. 映像音楽の作曲について

フィルムスコアリングのデモ

Video: David Trood (provided under Visit Greenland Media.GL License)

グリーンランドの観光局がMedia.GL Licenseで提供する映像を使わせて頂き、実際に映像に合わせて音楽を付けるフィルムスコアリングのデモを制作してみました。ここからは、既に出来上がった映像に対してどのような事を考慮して音楽を付ければいいのか、簡単にですが整理していきたいと思います。

カットとシーンを考える

クラップボード
Courtesy of Special Collections
University of Houston Digital Library

映像作品はビデオカメラが撮影を始めてからストップするまでのひと続きの映像であるカットあるいはショット(Shot)が集まって構成されています。このカットがいくつか意味的にまとまったものがシーン(Scene)です。

まずはカットを手がかりに映像のおおまかな構成を理解してみます。前後のカットは視点が切り替わっただけなのか、それとも時間や場所が変わっていたり、意味上のまとまりから外れた別シーンになっているか…といった具合です。

この映像では太陽の位置=時間帯が大きな手がかりになりました。朝の犬ぞりが出発するシーン、昼間の犬ぞりが走るシーン、日が傾く中スピードを出して走るシーン、夜のオーロラが映るシーンと4つに分けてみます。

タイムコード 時間帯内容シーン
0:00:00 犬の顔アップとタイトル(イントロ)
0:05:15 そりを準備する男性犬ぞりの出発
0:08:13 犬ぞりの出発シーン
0:17:23 犬ぞりの走る様子犬ぞりの走行
0:29:12 ※フェードアウト
0:30:09 勢いよく坂を下る犬ぞりクライマックス
0:36:19 犬ぞりの到着シーン
0:36:19 男性と女性のアップ
0:38:09 犬ぞりの片付けオーロラ
0:40:10 休憩中の犬とオーロラ
0:42:23 小屋とオーロラ
0:54:00 ※フェードアウト
0:54:09 Visit Greenlandのロゴ(クレジット)
カットの内容からシーンを整理する

シンクポイントを設定する

視聴者が重要な場面や出来事を見過ごしてしまわないように、あるいは強く印象付けて記憶に残してもらうために音楽でその瞬間を強調することがあります。このようなタイミングはシンクポイント(Sync Point)と呼ばれます。アクションやイベントが起きる瞬間や、カットとカットの切り替わりであることが多いです。アクションやイベントは必ずしも派手なモノだけではなく、例えば登場人物の表情の微妙な変化でもストーリーに大きく関わる重要なものならシンクポイントになり得ます

映像のフレーム(コマ)
by Openclipart

シンクポイントでは映像に対する音楽のタイミングを細かく調整します。人間の視覚や聴覚はわずかなズレにも敏感なので、タイミングを少し間違えると悲惨なことになってしまいます。

視覚よりも聴覚はさらに細かく時間差を捉えますが、映像はそこまで細かく記録をしないので映像のフレーム(コマ)に合わせれば十分ということになります。一般的な映像は1秒間に24~60フレームですので、41~16ミリ秒レベルの調整が必要となります。

タイムコードメモ
0:30:09フェードアウトして再び犬ぞりの映像が始まるポイント
0:38:09昼の犬ぞりから夜のオーロラのシーンに切り替わるポイント
0:54:09フェードアウトしてロゴが現れるポイント
シンクポイントを設定する

今回はシンクポイントを3つ設定しました。映像と音楽を過剰にシンクロさせるとコミカルな印象(ミッキーマウジング効果)になったり注意が分散してしまうのと、タイミングを合わせるのも困難になるので重要なポイントに絞り込みます。2か所は映像自体が一旦フェードアウトするという特徴のあるポイントで、もう1か所は昼の犬ぞりから夜のオーロラへと映像の内容が大きく入れ替わるポイントです。

シンクポイント間の拍子・BPMを計算する

音楽制作に使われるソフトウェアのDAWですが、たいてい映像ファイルの読み込みもできるようになっています。Cubaseの場合はビデオファイルを読み込んだ後にプロジェクト設定で映像のフレームレートを設定することで、1フレーム単位のグリッド表示が可能になります。これで音楽と映像のタイミングを確認・調整しやすくなります。

シンクポイントを決めた後は、このポイントを動かさないで済む音楽の拍子とテンポの組み合わせを探します。イントロはルバート(フリーテンポ)的にしたり、エンディングではリタルダンドでテンポを少しずつ遅くすることでシンクポイントに合うように微調整することもできます。残る中間部分のシンクポイント1~2番目の区間が今回は問題になりそうです。

DAWに映像を読み込む
DAWに映像を読み込む

どのような曲が合うかを考えて欲しいテンポをおおまかに決めます。BPMにシンクポイント間の時間(分)を掛けると拍数が計算できます。例えばBPM145で8秒なら145×(8/60)=19.333拍です。これに近い20拍が良さそうなので拍数を時間(分)で割るとBPMが20/(8/60)=150のように計算できます。

今回はきれいに計算できましたが、場合によっては曲を可変拍子にしたりBPMを小数点以下まで設定することも選択肢のひとつです。DAW上でテンポや拍子を設定するとすぐに映像とタイミングが合うか確認できるので、テンポを計算で割り出す手間はある程度省くこともできます。

映像音楽の作曲について

シーンメモ
朝:犬ぞりの出発犬ぞりの準備・朝日に映える一面の雪景色
昼:犬ぞりの走行そりを引く犬たち・小高い丘を登るときの高揚感
夕:犬ぞりのクライマックス夕日を受けながら疾走する犬ぞり(一番の盛り上がり)
夜:オーロラ宿泊地の小屋と美しいオーロラの映像
各シーンの特徴をメモして曲想を考える

全体で自然に繋がるように音楽を考えながらテンポや拍子を微調整した後は、それぞれのシーンの雰囲気に合わせて楽器を選んだり曲想を決めていきます。冷たくて澄んだ空気はピアノ、雪が太陽の光を反射してキラキラと光る様子はアコースティックギター、犬が駆ける様子は木管楽器、幻想的なオーロラにはバイオリンというように決めてみました。

映像の内容を何から何まで音楽で表現・説明しようとする必要はありません。敢えて映像から離れた音楽を付けることもあります。もっとも重要なのは、映像作家や監督がどういう意図でこの映像を制作したのか視聴者に伝えたい事は何かという部分です。

そうしたことを踏まえた上で映像に対して雰囲気や空気感を添えたり、登場人物の感情を強調や暗示したり、映像自体の美しさや面白さを強調するような音楽を考えていきます。こうしたBGMの役割について整理した記事も書きましたのでこちらからどうぞ↓